突然吐いてふらついてしまったと慌てたご家族からご連絡を受けることが多いこの前庭障害についてご紹介します。
おうちの子で一度でもご経験があると印象に残って忘れない症状ですが、よく遭遇する症状ではなく多くの方がご経験がないかもしれません。
前庭疾患とは、身体の前庭という場所がうまく動かなくなる状態です。
前庭は目や頭の位置を正常に保つに大切な器官です。平衡感覚を司る器官とも言えるので、ここが障害をうけて機能しなくなると、さまざまな重症度のバランスを保つ機能や姿勢の異常を引き起こします。
また、前庭は末梢または中枢といったように分かれておりどちらに異常があるかによって原因が違い、症状も多少異なってきます。
障害箇所による違い
末梢性:耳の中の中耳と内耳という部分の異常によって起こります。中耳病変は通常、他の症状がなく、捻転斜頸;頭部の傾き(病変と同側)を引き起こします。水平または回転性眼振も見られることがあります。内耳疾患は実際には錐体骨内の受容器と前庭神経に関係しているため、通常、同側頭部の捻転斜頸(頭が傾く)に加え、転倒、回転、旋回(まっすぐ歩かず円を描くように歩く)、眼振(眼が揺れる)、位置性斜視(眼球の向く方向が斜めになる)、非対称性運動失調(左右同じように起こらない運動の不具合)などの他の症状を起こします。
犬や猫では、交感神経の幹が錐体骨のすぐ近くの中耳をを通るために同側眼のホルネル症候群(縮瞳、眼瞼下垂、眼球後退)が中耳または内耳の病気に伴って現れることがあります。
片側性末梢前庭疾患の主な特徴は、姿勢反応というものには異常がない非対称性運動失調(うまく動けない様子)と、頭の位置が変わっても方向が変わらない水平または回転性眼振です。
症状
首が傾いた状態のまま戻らない(斜頸)、旋回や眼振(目が揺れる)などの症状を示す疾患です。 平衡感覚がうまく保てず船酔いのような状態になるため、嘔吐、ヨダレ、食欲不振、運動失調などの症状を伴うことも多々あります
前庭障害の臨床徴候は、通常、片側性(左あるいは右側のどちらか)の異常が出ますが、まれに両側性(左側と右側)の場合もあります。
原因
主に中耳や内耳の炎症、耳に有毒な抗生剤や薬剤や外傷、腫瘍、甲状腺機能低下症などがあります。
甲状腺機能低下症はホルモン疾患ですが、多種多様の症状の原因となることがあります。
また、あらゆる検査で特定の原因が見つからない場合は特発性前庭障害とされ、症状は突然現れます。
過去のデータでは前庭症候群を呈する犬 239 匹が含まれ、これらの 犬たちの 95% が 8 つの疾患にわけられました。前庭疾患の原因では特発性が最も多く、以下の内訳になります。特発性前庭疾患 (n = 78 匹)、内耳炎 (n = 54)、原因不明の髄膜脳炎 (n = 35)、脳腫瘍 (n = 26)、虚血性梗塞 (n = 25)、頭蓋内膿瘍 (n = 4)、メトロニダゾール中毒 (n = 3)、中耳に影響する腫瘍 (n = 3) です。
特発性前庭疾患に関連した因子で多かったのは高齢であること、体重増加、臨床症状が自然に改善、眼振、顔面神経麻痺、ホルネル症候群がないこと、および末梢性と関連していました。
内耳炎は、若齢、オス、ホルネル症候群がある、末梢性、および外耳炎の既往がある子で多いという結果でした。
虚血性梗塞は、高齢、症状の急激な発症、斜視がないこと、および中枢性であったこと関連していました。これらの情報は症状から原因を推察するヒントになるかもしれません。
次回は診断や治療についてご紹介します。
参考文献 Mertens AM. et al.2023 Sep 22;10