制吐剤

お薬の紹介です。
制吐剤は一般的に急性嘔吐の対症的(原因の根本的な治療ではなく症状をおさえる治療)な治療薬として、あるいは慢性疾患の補助的役割として活躍します。時には欠かせない治療の副作用防止でも使われます。

制吐剤といっても色々な作用の薬があり、作用機序(薬が作用するポイントやその仕組み)によって用途が異なります。

また、犬と猫のどちらも使える薬は多いものの、犬と猫では効きや副作用が違う薬もあり注意が必要です。

マロピタント(セレニア ®️、マロピタット®️

体内の末梢性および中枢性催吐性物質に対して効果的で、乗り物酔いやそれに伴う嘔吐の予防や治療で使われます。
犬で承認が得られましたが、マロピタントの成分は猫でも効果があるデータが出て獣医師の判断のもと広く使用されています。
適応は乗り物酔いだけではなく、抗がん剤の副作用を抑える場面や慢性腎不全の管理のためなど広く使用されます。
注射や経口薬の選択肢があります。

目立った副作用がないため使いやすいお薬ですが、食欲増進作用や悪心抑制作用はないとされるため、嘔吐が止まっても食欲がでない場合は、食欲増進剤(ミルタザピン、カプモプレエリンなど)悪心を軽減する他の薬(オンダンセトロンなど)の併用が推奨されます。

オンダンセトロン

嘔吐中枢に効果があり、吐き気止めの作用以外にも悪心もしっかり止める作用があるとされています。マロピタントが汎用されるまでは抗がん剤による嘔吐の治療や予防にも使用されていましたが、高価なのでマロピタントで効果が弱い場合などに使用されます。注射や経口薬の選択肢がありますが、強い症状の時に使用することが多く、経口ではなく注射で使用されることが多いと考えます。

メトオクロプラミド(プリンペラン®️、ボミットバスター®︎

犬ではこの薬の嘔吐中枢に対する効果がありますが、猫の嘔吐ではメトクロプラミドが効果をしめす嘔吐中枢が嘔吐に寄与していないため、嘔吐抑制効果が乏しいともされます。猫でも消化管に対する腸蠕動作用はあるので、ある程度の効果があります。また、経口薬より注射の方がしっかり効果が得られるので入院中に持続的に点滴で投与することもあります。消化管運動改善が機能的イレウス(物理的な閉塞がないが、様々な原因により腸の動きが低下した状態)に対し効果を示す可能性が示唆されています。猫では、興奮を示す子もいますが様子をみれるレベルになります。また、ボミットバスター®︎という動物薬は人薬(※)のプリンペラン®︎より長く持続するため1日2回で効果があります。入院中は持続点滴が良いとされます。

※動物病院では獣医師の判断のもと人薬も使用します

ファモチジン(ガスター®️

消化管に効果を発揮し胃酸分泌を抑制しますが、犬猫では胃酸分泌効果が人より弱いことがわかってきています。しっかり胃酸を止める場合はオメプラゾールというプロトンポンプ阻害剤が有効的とされています。

オメプラゾール

プロトンポンプ阻害剤で胃酸分泌にかかわるプロトンポンプと呼ばれるタンパク質の働きを阻害することで胃酸分泌を抑制します。人では逆流性食道炎などの治療で使われています。
犬猫ではこれらが逆流性食道炎を予防できるのか、また予防することでメリットがあるのかの投与効果があるかまだわかっていません。

補足 
慢性腎不全の管理において吐き気止めのために制酸剤(胃酸を抑える薬)が使われてきました。その背景には、人の腎不全で尿毒症性胃炎や胃潰瘍が知られていることがあります。しかし、近年2017年の論文では腎不全の猫の胃のPHやガストリンは正常の猫と比較して差がなかったという報告2014年の論文では猫の腎不全では胃潰瘍ではなく胃の石灰沈着(腎不全の38%)や線維化(腎不全の43%)が多いといったことがわかってきています。
このようなことからファモチジン(ガスター)やオメプラゾールのような胃酸分泌抑制剤は継続的に与える必要ないとされてきています。

空腹時の嘔吐(胆汁酸嘔吐)は特に犬に多く認められます。胃内に食べ物がない時間が長いと逆流した胆汁が胃内を刺激して嘔吐する症状です。特徴は、朝一番に嘔吐すること、吐物は黄色い液体が混じることが多いこと、比較的若い犬に多いことなどがあげられ、検査をしても嘔吐を起こす異常がないことが多いです。その他にも体重減少がないことなどがあげられます。
この場合に胃酸をおさえるほうが効果的という論文と、胃酸が悪さをしているわけではないために(胆汁が胃酸にまじってPHが変化して刺激になる)胃酸を抑えないほうが良いという見解があります。夜の食事を少しわけて夜食を与えたり、朝の食事を早くするなどして食事と食事の間の時間を減らすなどの対策も推奨されています。

引用文献
Kenward H, et al. Vet Res. 2017
Batchelor DJ, 猫の嘔吐障害のメカニズム、原因、調査と管理:review JFMS. 2013

Tolbert MK, et al JVIM 2017

当院は早朝7時から(日曜・祝日は9時〜)完全予約制で診療を行なっている渋谷区の動物病院です。

皮膚科以外にも循環器科(心疾患/心臓病)、消化器科(内視鏡完備)に力を入れ、外科を含め幅広く対応しております。
夜間に体調を崩し、朝になっても回復していない場合、朝からお仕事やご用事がある場合など、早朝の診療をお勧めいたします。
セカンドオピニオンにも対応しておりますので、過去の検査資料や予防歴をご持参してください。

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この記事を書いた人

巡 夏子

大学卒業後、北海道の中核病院で内科や外科診療に携わった後、関東の夜間救急病院で勤務しながら大学病院や2次診療施設で循環器診療を習得。その後、2つの一般病院で診療部長や副院長として診療にあたる。2023年、渋谷区元代々木町に「めぐり動物病院 元代々木」を開院する。