脾臓摘出術  part2

脾臓摘出術の種類  

犬の脾臓摘出には 2 種あります。

  1. 脾臓全摘術最も一般的に行われます。脾臓から出る動静脈を止血して切除します。
  2. 脾臓部分切除術(脾摘術) – 脾臓の一部のみを切除します。このタイプの脾臓摘出術はめったに行われず、通常は外傷性で脾臓の一部が損傷した場合や脾臓に限局し画像検査で明らかにあ良性腫瘤であると考える場合に考慮しますが、切除後に悪性腫瘍だった場合は全摘出を再度受ける必要があります。また、手術時間も全摘出より長くなるとされます。メリットは脾臓機能の温存ですが、全摘出術が行われることが一般的です。

脾臓解剖


脾臓は長くて薄い臓器です。頭側が脾頭部、お尻側が脾尾部とされています。脾尾部は比較的自由に動きます。
血管はすべて中央の脾門部から出て入ります。動脈系は腹腔動脈から分かれており、肝動脈、左胃動脈、脾動脈に分かれる、脾動脈が膵臓や左胃大網動脈に分かれます。脾頭部分に分かれた脾動脈は脾臓と胃の胃底部(単胃動脈)につながっています。
静脈は全て門脈に入ります。動脈系の反対で、左胃大網静脈、左胃静脈と合流してから門脈に入ります。

出典:見てわかる小動物の外科手技 一部改変

手術時の注意点

  • 癒着の注意点:脾臓にできもの(腫瘤)がある場合はできものから出血したあとに周りの臓器や大網という膜に癒着しやすく、癒着している場合に不用意に脾臓を動かすと不要な出血を起こすため、無理に動かさないことが大事です。手術を開始して、皮膚、腹膜を切開し、腹腔内から脾臓を取り出す際に、脾頭部(頭側)の部分はもともと自由に動く場所ではないため慎重に行う必要があります。脾臓の出来物が大きく腫れている場合はより体外に出しにくく、脾臓を牽引して取り出すというよりは、お腹の皮膚や筋肉を背中側に押し下げ徐々に脾臓にアプローチするようになります。癒着している部分と脾臓を一緒に少しずつ取り出し、癒着で動かない場合は、癒着部位から徐々に止血しながら外していくことになります。
  • 捻転している時:捻転している脾臓を戻さずにそのまま摘出する。捻転を戻すと、再灌流障害を起こすことがあります。再還流障害とは虚血していた脾臓の中の炎症性メディエーターや血栓など(いわゆる毒性産物と言われるもの)を全身にに放出してしまうリスクがあるとされます。
  • 麻酔中の不整脈:脾臓が悪性腫瘍の場合や大きな腫瘍の場合、手術時に心室性の期外収縮(連続すると心室細動)が多発することがあります。心室細動になると血圧の維持が難しくなるため、抗不整脈薬であるリドカインの持続点滴を使用します。
  • 過去には胃に行く血管は温存するようにとされていましたが、胃への血流は豊富で他の血管からも血流を受けているため現在では結紮しても問題にはならないとされています。通常は胃への血管を結紮せずとも摘出できますが、腫瘤の位置や癒着の度合いによって難しい場合は無理をして出血させることなく余裕を持って結紮摘出をするのが良いとされています。

合併症

出血:術後のリスクとして、結紮部位などからの出血があります。背景疾患によっては凝固障害が起こりやすくそれにより出血しやすいこともあります。

胃拡張捻転症候群(GDV):脾臓摘出によりGDVが起こるリスクが言われています。リスクが上がらないという報告もありつつ、大型犬では脾臓摘出と同時に胃固定(胃が捻転しないように胃を腹壁に縫い付ける手術)を行うこともあります。


脾臓摘出は想定される合併症に対しそれに対応する用意をして行う必要があります。当院では縫合糸の結紮に加え血管シーリングシステムを使用し、手術時間の短縮をはかっております。


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この記事を書いた人

巡 夏子

大学卒業後、北海道の中核病院で内科や外科診療に携わった後、関東の夜間救急病院で勤務しながら大学病院や2次診療施設で循環器診療を習得。その後、2つの一般病院で診療部長や副院長として診療にあたる。2023年、渋谷区元代々木町に「めぐり動物病院 元代々木」を開院する。