失神について

以前”発作”のご紹介で少しふれましたが、

失神は、脳に十分な酸素が供給されなくなった時に起こる一時的な意識喪失という定義です。
脳への酸素が減少する最も一般的な理由は、循環器の問題が多いです。失神するほとんどの犬は、再度適切な酸素が脳に到達すると意識は自然に戻ってくることが多いです。

失神の原因は大きく分けると、心臓自体自律神経それ以外になります。

  • 心臓自体の問題では、一部の犬種で失神を起こしやすい疾患があります。

・コッカースパニエル、ミニチュアシュナウザー、パグ、ダックスフントで発生するとされる、洞不全症候群(SSS)では、洞結節という心臓の歩調とりをする場所が正常に機能せず、心拍数が非常に遅くなったり、急に速いなるなどの不整がでます。
・ボクサーとジャーマン シェパードは、心臓の下部室で発生する不規則な心拍を発症することがあります。この状態を「心室性不整脈」といいます。

一般的に、失神は若い犬よりも高齢の犬に多く見られ、発現する徴候は失神の根本原因によって異なります。

失神を起こす不整脈は大まかに以下のようなものがあります。

徐脈– 徐脈は、洞結節の非常に遅い信号の発動、洞結節の障害、洞結節から心臓の下位の方、心室への信号のブロック、または心房という筋肉の停止によって引き起こされる可能性のあります。簡単にいうと異常に遅い心拍数になります。

頻脈– 頻脈は、心拍数が異常に速くなります。心拍数が早いということは、心臓の中に一度に充満する血液が減り、心拍出量が減り失神につながります。頻脈は心室または心房のいずれでも発生する可能性があります。連続して心房で発生するものを上室頻拍、心室で発生するものを心室頻拍といいます。

心臓から出る血液が少ない、“低心拍出”でも失神を起こします。


心臓から排出される血液量が通常よりも少ない疾患にはさまざまな要因ある可能性があります。
  • 心筋の病気は心臓の機能が落ちます。心臓の筋肉の炎症が起こって機能が低下することもあります(例 拡張型心筋症、肥大型心筋症など)
  • 心臓の弁が悪くなる房室弁疾患は悪化すると失神を起こすことがあります。(例 僧帽弁閉鎖不全症、弁膜症による肺高血圧症)
  • 先天性心疾患のなかには心臓から出る血管が異常に狭く、心臓から拍出する血液が減ります。(例 肺動脈弁狭窄や大動脈弁狭窄症などがこれにあたります)
  • 犬糸状虫症(フィラリア)は心腔や周囲の血管を詰まらせ、血液の通過を妨げる可能性があります。またフィラリア による体の反応で肺血管に血栓や肺血管の肥厚がおこり肺の血圧が高くなることで失神を起こすことがあります。
  • フィラリア 以外にも血栓塞栓と呼ばれる心腔または肺内の血栓が血流を妨げる可能性があります(例 肺高血圧症 )
  • 心臓にできる腫瘍は心拍出量の低下を引き起こす可能性があります。腫瘍からの出血によるもの。腫瘍のせいで血管が狭窄しているものなど。(血管肉腫、心基底部腫瘍)

反射性失神 神経系に関連した失神の原因

血管迷走神経性失神– 迷走神経は、心臓が鼓動する血管の緊張を調節するのに役立ちます。感情的なストレスや興奮が高まった瞬間には、神経系が心臓を刺激して短時間非常に速く拍動させ、一時的な高血圧状態(高血圧)を引き起こすことがあります。迷走神経は、血管の拡張を引き起こすことで一時的な高血圧に反応する可能性がありますが、それに伴う心拍数や血流の一貫した増加は伴いません。その後、フィードバックにより心拍数が低下し、脳への酸素を含んだ血液の流れが減少し、犬は失神してしまう可能性があります。

状況失神– 状況失神は、強い咳、嚥下(飲み込み)、または排尿や便の排出に伴う腹部の圧迫に関連して起こることがあります。

頸動脈洞の活動亢進– 頸動脈洞は頭につながる頸動脈に位置し、心拍数と血圧の調節に役立ちます。散歩中に首輪を引っ張ると頸動脈洞が刺激され、低血圧(低血圧)や徐脈を引き起こす可能性があります。

失神のその他の原因

  • 低血圧:血圧を下げる薬物など
  • 低血糖(低血糖)
  • 血液中のカルシウム濃度の低下(低カルシウム血症)またはナトリウム濃度の低下(低ナトリウム血症)など
  • ホルモン疾患


    失神の原因をさぐるためには、血液検査や画像検査、ホルモン検査などのスクリーニング検査をおこないます。
    何も異常がないという場合もあり、その場合は失神の頻度によって自宅での24時間心電図(ホルター心電図)を考慮したり、脳神経疾患の可能性も検討します。
    自律神経の異常は動物では直接わかる検査がないため、多くの場合は年齢や失神時の状況、スクリーニング検査によって異常がない場合などで予測します。

失神なのかな?ふらつくような症状でわかりにくいこともありますが、その場合はご相談ください。
動画は可能であれば撮っていただくと診断の一助になることもあります。

当院は早朝7時から(日曜・祝日は9時〜)完全予約制で診療を行なっています。
夜の間に体調を崩し、朝も治っていない場合。朝からお仕事やご用事がある場合は早朝の診療ですぐ対応させていただければと思います。ご予約枠がない場合はお電話でお確かめください。(緊急時はすぐにお電話をください)


この記事を書いた人

巡 夏子

大学卒業後、北海道の中核病院で内科や外科診療に携わった後、関東の夜間救急病院で勤務しながら大学病院や2次診療施設で循環器診療を習得。その後、2つの一般病院で診療部長や副院長として診療にあたる。2023年、渋谷区元代々木町に「めぐり動物病院 元代々木」を開院する。