僧帽弁閉鎖不全症 栄養・食事

僧帽弁閉鎖不全症(粘液腫性僧帽弁疾患:MMVD)は、進行性の僧帽弁変性が心不全を起こすことが多い犬では一般的な心疾患で、以前の回でも何度かご紹介しております。

罹患した犬は通常初期は長期間にわたって症状が出ませんが進行して肺水腫などのうっ血性心不全に陥ると、予後は悪く平均生存期間は12か月未満とされています(Häggström et al.、2008)。
したがって、心不全の発症を遅らせるというのは非常に大切なことです。

エコーで僧帽弁逆流が確認できます。

僧帽弁閉鎖不全症(粘液腫性僧帽弁疾患:MMVD)のなかの初期段階の MMVD は心拡大がないステージB1と、左側の心臓拡大が出ているステージB2に分けられます。(Atkins et al.2009)。ステージB2の犬の場合、強心剤であるピモベンダン治療はCHFの発症を大幅に遅らせることがわかっております(Boswood et al. ,2016)。2019年の米国獣医内科学会(ACVIM)ガイドラインでは世界の循環器専門医で協議した推奨の治療の詳細が規定されそれにのっとった治療が推奨されています。(Keene et al.2019)。

心臓が大きく、普段から咳が出ています

薬による治療が無症状時期を延長させるために重要であることは明白ですが、栄養学的に補助できることがないのかに関しても世界ではアプローチされており、最近一つの報告を見ました。





まだまだ確定的なことではないのですが、食事にサプリメントすることで良い結果が得られる可能性も示唆されています。

下記は心臓保護ができると仮説をたてた”心臓保護ブレンド食”を与えたMMVDの犬に一定の効果が示唆された論文です。

前提:粘液腫性僧帽弁疾患 (MMVD) はエネルギー代謝、酸化ストレス、炎症の変化に関連しているとされ、エネルギー不足は心不全の発症に関与している。
目的:エネルギー源としての中鎖トリグリセリド、炎症を軽減する魚油、抗酸化物質、心臓の健康と機能に重要なその他の重要な栄養素を含む栄養素の心臓保護ブレンド(CPB)がMMVDの進行を遅らせたり予防したりできるかどうかを判断すること。
方法:初期段階のMMVDの犬19頭と、品種、年齢、性別が一致した健康な犬17頭で各MMVDと健康グループの犬は、対照食(CON)またはCPB添加食のいずれかに無作為にわけられました。心エコー検査はベースライン、3か月後、6か月後に実施されました。
結果:健康な犬には変化がなく、MMVDでCONの 犬は6 ヵ月で心臓の大きさが10%程度増加した(左心房径 (LAD) と左心房対大動脈基部の比 (LA/Ao) がベースラインより平均 10% 増加)。MMVDでCPBを食べた 犬は 心臓の大きさが3% 減少し、時間の経過とともに大幅に縮小した。

Li Q. et al. BMC Vet Res. 2019 Nov 27;15(1):425.

このように、栄養素を余分に含んだ食事をした犬は通常進行するはずの心拡大が起こらなかった可能性があるという報告です。まだまだ頭数が少ない、観察期間が短い、観察したケースが病期の初期の犬で進行しない子もいるためこの研究ではまだ確定的なことは言えないと考えますが、今後の研究にも期待したいと考えます。

魚油抗酸化作用のある栄養が足されたフードはシニア用のフードなどですでにありますが、心臓用のフードとはうたわれていないことが多いです。
サプリメントや食事でこれらの栄養をとることでデメリットはさほどないと考えられ、試す価値はあるかと思います。

また、うっ血性心不全を治療でコントロールしてもさらに進行し通常の治療をもってしても肺水腫を繰り返す、入退院を繰り返す時期はステージDとなり、肺高血圧症や不整脈などの様々な合併症がでてきます。その際には落ち着いていても腹水が溜まり悪液質(栄養をとってもそれを体が利用できない状態。癌だけではなく様々な疾患の慢性期で起こります)状態に陥ります。その時に栄養のサプリメントを行っても効果が薄く、事前に開始しておくことで悪液質を予防できる可能性があるとされています。

実際に普段の食事に加えどのような栄養をとったらいいのか、飲みやすいサプリや追加しやすい処方食はどのようなものか、ご提案させていただきますのでお気軽にご相談くださいね。

この記事を書いた人

巡 夏子

大学卒業後、北海道の中核病院で内科や外科診療に携わった後、関東の夜間救急病院で勤務しながら大学病院や2次診療施設で循環器診療を習得。その後、2つの一般病院で診療部長や副院長として診療にあたる。2023年、渋谷区元代々木町に「めぐり動物病院 元代々木」を開院する。