異物誤食 内視鏡編

おうちの猫が食べたフードを吐いて不思議に思っていたら、リボンが行方不明になったことに気がついた。

1度目に受診した動物病院の検査では異常はなく無治療だったが、吐き気も治って様子をみていた。その、数日後にまた嘔吐して食欲がなくなる、といった症状を繰り返し1週間たって当院は3つ目の動物病院で来院されました。

本当に食べたてしまったのか?(いきなり疑っているようですが、実際に、誤食したと思って検査を進めていたら、後から自宅の思わぬところから出てきた!とご家族から報告を受けたことも多くあります。そういった考えも持ちつつ検査と診断をすすめます)

飲み込んだものと同じリボンを見せていただくと、少し心配な長さのリボンですが、薄いのでうまくいくと胃腸を通過して便に混ざって出てくる可能性もありそうに見えました。
しかし、食べてしまったかもしれない長さがやや曖昧で、長ければ量が増えるため胃腸から排泄はされず問題を起こす可能性が高いと考えられます。また、紐状異物と呼ばれるもので危険性が高いものになります。

検査

身体検査、レントゲン検査、血液検査は大きな異常はありません。
(症状が持続してある場合に、異物誤食だけにフォーカスを当てていると実は他の疾患が原因だったということもあり、見落としを防ぐため血液検査を含めて行うことが多いです。)

エコー検査をすると、内視鏡検査をご提案すべき所見がありました。

異物(リボン)がある胃のエコー像。ガスや少量の液体に混ざって長いリボンが折れ曲がり断片がライン上に見えています。定規で引いたような真っ直ぐな線が人工物を疑うポイントです。
正常な猫の胃。胃は縮小してガスが少しあります。
補足:エコーは空気や硬いものがあると、その奥(モニターの下側)は黒くなって見えにくくなります。音響陰影 acoustic shadowという現象です。

異物誤食の際の検査


レントゲン検査で異物診断ができるかどうかに関しては、判別できない方が多いといってもいいかもしれません。レントゲンは金属や石のような硬いものなら写りますが、通常は内臓と同じレベルの色合いになってしまい識別できません。とは言っても、除外診断や胃腸の状態把握、その後の治療のために通常は必須となる検査です。

エコー検査はレントゲン検査より異物誤食の時に有用なことはありますが、必ずエコーで確認できるわけではありません。細い腸内では異物が閉塞(詰まっている)している場合など比較的診断が容易ですが、胃は袋状なのとガスが多い場合は異物の存在の確認が難しいことが多いです。
確認できるか否かは、異物自体の量や大きさ、物の密度だけではなく、胃内のガスの存在、食事などの内容物に影響をうけます。胃腸には正常でもガスがありますが、ガスが多いとエコーではガスの下は真っ黒になってしまい何も映らなくなります。食べ物でも同様のことが起こり、同じ子でも検査の検査のタイミングによって確認できたりできなかったりします。
この子も当院の検査時はガスが寄ってくれていてちょうど良い場所に異物が見え、身体の一部でもない食べ物の一部でもないような人工物を思わせる綺麗なラインが見え、リボンが折り重なっている断片を疑いました。

内視鏡 異物摘出 

胃の奥にリボンが見えます。胃粘膜から出血していました(写真左上)。異物が1週間ある、何度か激しく吐いた等の影響かと思われました。
手前の白い物体が異物を摘出するための鉗子の一部部です。今回は輪っこになっているスネアでとりました。
リボンの塊の向こう側に鉗子を移動して奥からとります。
リボンが掴めています。端っこだけをつかむと外れたりちぎれたりすることがあるためしっかり真ん中をホールドします。
考えていたより長いリボンでした。一番下の白いリボンがオーナーから事前に見せていただいた誤食したリボンと同じものです。誤食したリボンはそれより長く、胃酸で変色して硬くなって重量も増えていました。

内視鏡検査をまで進めるかどうに関しては、今回は症状が持続してあったこととエコー検査の所見が決めての一つになりました。
これが症状がない場合やエコーで確認できない場合も多くあります。低侵襲とは言え麻酔をかけてコストをかけて受けて内視鏡を実施すべきなのか悩ましいケースもあります。

画像検査で異物が確認できなくても誤食してしまっている可能性が高い場合は低侵襲で短時間の麻酔で行える内視鏡検査を実施させてもらうことがあります。内視鏡が届く範囲は限られておりすべての腸が観察できるわけではないので、そこまで確認して異物がなければ流れてしまったか、食べてないか。流れてしまっている場合は腸閉塞(異物が腸を通過できず詰まってしまうこと)を起こさないかどうか経過をみる。腸閉塞を起こしたら症状が出ますし、ほぼ開腹手術になります。

実際に内視鏡を始めると、エコー検査どおりリボンが見えました。
リボンは固まってくれていたので取りやすいものでしたが、1週間たって胃液で重く硬くなっているリボンの塊は予想より重量が重くなっていたため、ただ引っ張るだけでは取れず全体をしっかりホールドするようなやり方でとってきました。

摘出は数分。麻酔時間は30分以内。

症状がなくなり元気になってくれました。



異物を誤食した場合、症状の有無にかかわらず問題を起こすかどうかを考える必要があります。
また、食べたかどうか定かではない場合も検査で異物を完全に除外することは難しく何度か検査が必要になることもあります。


異物を食べた時

  • 食べてしまった時は、あれば食べた物と同じものの持参していただく。
  • 異物を嘔吐したらそれも取っておいてもらい写真をとる持参していただく。
  • 食事を食べさせないで病院へ。

注意する点を覚えておいていただくと、いざという時に速やかに対応できると思います。ご不明点があればお気軽にご相談くださいね。







この記事を書いた人

巡 夏子

大学卒業後、北海道の中核病院で内科や外科診療に携わった後、関東の夜間救急病院で勤務しながら大学病院や2次診療施設で循環器診療を習得。その後、2つの一般病院で診療部長や副院長として診療にあたる。2023年、渋谷区元代々木町に「めぐり動物病院 元代々木」を開院する。