雄の精巣を摘出して繁殖できないようにする外科手術です。
家族としてわんちゃんやねこちゃんを迎え入れた場合、具体的な繁殖の計画がなければ男の子は去勢手術を基本的にお勧めします。
去勢手術の目的(メリット)やデメリットについてみていきましょう。
去勢の目的
- 思わぬ繁殖を予防できる
これが一番の目的です。ドッグランなどの施設でも利用条件に去勢手術を済ませていることが条件の施設が多いですね。 - ホルモンが関与する行動を修正できる
これには補足があって、攻撃的な性格は治りますか?と聞かれますが、ホルモンが関係する行動の一部は修正できるのですが、攻撃的な性格はホルモンが関与しているかの判断がつきづらいため、去勢をしてみて効果を判定してみるようになります。また、生後すぐから攻撃的な子は手術でさらに悪化するという報告もあります。
去勢手術で猫の尿のスプレーや犬のマーキング、放浪は8−9割軽減できるとされていますが、少数の子では改善しなかったという報告もあります。
攻撃的な行動については全く意味がないとは言いませんが、問題の行動全てを去勢で直すというのは難しいと言えます。 - 病気の予防ができる
- 前立腺肥大、前立腺膿疱、前立腺膿瘍
前立腺肥大とは膀胱の後ろにある臓器で6歳過ぎた犬の8割は精巣から出る雄ホルモンの影響で大きくなるとされています。
拡大した前立腺は尿や便をする時に違和感を起こし、ホルモンが出ているうちは拡大し続けます。中に膿疱や膿瘍といったものが出来やすくなることも知られております。膿がたまると、それが破れ腹膜炎を起こし重症になることがあります。 - 会陰ヘルニア
男性ホルモンによって肛門の周りの筋肉が落ちその隙間に脂肪や膀胱、大腸、前立腺などの近くの臓器が張り入り込んでしまい便や尿がでずらくなります。悪化すると隙間が大きくなり排泄物がお腹のなかに漏れて腹膜炎になったり、尿が出なくなって腎不全になり命を落とすこともあります。
- 睾丸の腫瘍
睾丸自体の癌は発生率はそこまで多くはないものの、癌になってしまうと治療が難しいケースもあります。特に停留精巣といって精巣が通常の位置
- 前立腺肥大、前立腺膿疱、前立腺膿瘍
去勢のデメリット
- 繁殖できなくなる
- 麻酔のリスクや手術の合併症が起こることもある。麻酔薬へのアレルギーが起こることもある
- 手術後太りやすくなる
去勢後はホルモンバランスの変化によって代謝が落ちて太りやすくなります。また、食欲を抑えるホルモンが減少し食欲が増えるのでより体重が増える傾向となります。 - 一部の犬種で骨折や癌などの発症リスクが上がるという報告あり(まだ確定的ではないが関連が示唆されている)
- 手術の時に使った縫合糸に反応して肉芽(できもの)ができることがある
デメリットをみると怖く感じますが、メリットとデメリットを天秤にかけると、確率ではメリットがデメリットを大きく上回るとされているのが去勢手術を推奨する理由になります。私が獣医になりたての頃は去勢手術を受けていない子が今より多く会陰ヘルニアや睾丸の腫瘍で高齢になってから手術をせざるを得なくなった子や、年齢や基礎疾患のため手術を断念せざるを得ず内科治療でうまくいかずに苦しんでいる子もみてきました。
予防できる病気は予防して健康寿命を延ばしていただければとご説明しております。
近年獣医療では安定して麻酔を実施できる施設が増えており、当院でも鎮痛や麻酔薬をうまくミックスして優しく安全な麻酔で手術が可能です。
とはいえ、健康なのに本当に手術が必要なのかという疑問や麻酔や手術自体の不安はゼロにはならないものです。
手術のお勧め時期(犬種によって若干変わります)やリスクについて診察では詳しく説明し、納得された上で手術を受けていただいていますので、どうぞ安心してご相談くださいね。