痛み

日々の診療で遭遇する痛み。痛みと一言で言ってもその程度から種類まで様々な種類があります。

一般的に”痛み”は負のものとして考えれられます。痛みを感じることは良くないことで痛みを感じないことが求められます。ただ、痛みというものは本来体を守るためにあることが知られています。

実際に痛みの種類には生理的疼痛病的疼痛の2種類の分類があります。

生理的な痛みは,動物が組織損傷を最小限にするため(戦闘または逃亡反応), または創傷修復期に外部刺激を避けるために防御機能として侵害刺激に対する正常な反応を引き起こすことから,「適応性疼痛(adaptive pain)」とも呼ばれます。

強い圧迫、熱さ、冷たさ、刺激(化学的・電気的)、言い換えると、つねる、突っつく、強く触れられる、熱い物体や極端に冷たいものに接触すると有害と感じて逃げる動きをとります。これがさらに引き起こされる組織ダメージの予防になり、起こっている傷害の治癒が促されるという仕組みになっています。

骨,関節,筋肉または皮膚の損傷によって生じる痛みを体性痛といい、侵害受容器というところで感じます。これらの痛みはピンポイント(局在性)で感じ、痛みは一時的という特徴があります。

ちなみに、反対に内臓痛は局在性がなくピンポイントでこの場所で痛みが起こっているということが認識できません。

侵害受容器に入った刺激のうち痛みを感じる神経繊維は2つC線維Aδ 線維という神経が感じとります。特に強い刺激に反応する神経です。神経線維はその他にもいくつありますが、これらの神経は痛み刺激を感じません。C線維は一番刺激を感じやすく、痛み、温冷感を感じます。

話を戻して、生理的痛みに対し病的な痛みとはどのようなものか。
重度の痛みが治療されないと実際に起こった損傷部位を超えて痛みがでるようになります。そのことを病的な痛み、あるいは不適応性疼痛とよびます。例えばダメージを受けたところが直っても痛みが持続してしまいます。

具体例としては、手術を受けたり外傷で起こる急性痛は適応性疼痛として傷の治癒促進に寄与します。
ただ、急性痛でも大きな手術や大怪我癌による癌性疼痛は持続する慢性痛として痛みが増強されて苦痛の元となります。このような痛みは病的疼痛として長く続き変化します。こうなると痛みを起こす刺激の閾値が低下し、知覚過敏と呼ばれるものになります。知覚過敏とは通常だと刺激として感じないことに対して過敏に反応し強い刺激として感じてしまうことです。
知覚過敏は通常は眠っていて反応しない神経(Aβ 神経線維:弱い刺激しか感じない神経)によっても痛みを感じてしまう異痛を起こします。

このように、病的な痛みである不適応性疼痛を放置すると痛みを感じ易くなることがしられているため、痛みの種類を認識して対応し治療に臨むことが大切であるとされます。

病的疼痛は動物の外観や様子から評価しずらいものとされます。それは本来動物は痛みを隠す性質があるのも理由の一つだと考えられます。状況やケアしている疾患自体を意識しないとその病的疼痛が起きていることに気が付かずに痛みを取り除けず苦痛を与え続けることになります。

お薬の選択や治療もこれらを意識して疼痛管理することが必要ですし、一見痛みがない様に思われても痛みがあるのではないかと疑いながらケアにあたることが慢性疼痛の管理の鍵になります。


疼痛管理のお薬には様々なものがあります。
急性疼痛にも慢性疼痛にも様々な薬を組み合わせることでより速やかに副作用を軽減して疼痛が軽減されます。また慢性疼痛は薬のみならず理学療法を組み合わせることで疼痛緩和により効果があるとされています。
特に薬についてはデメリットが怖くて使用を拒否される患者様がいらっしゃいますが、適切な疼痛管理をすることによっておうちの子を少しでも楽にしてあげることがあります。

治療にはメリットに加えデメリットや副作用を伴うことがありますが、ご不安なことはなるべく解消してご相談して安心して治療を受けていただける様に留意しております。お困りのことがあれば是非ご相談くださいね。

参考書籍:獣医臨床麻酔学 学窓社


当院は早朝7時から(日曜・祝日は9時〜)完全予約制で診療を行なっている渋谷区の代々木上原駅、代々木公園駅から徒歩圏内の動物病院です。
お家の子が夜間に体調を崩し救急病院を受診せずに様子を見た場合や、朝になっても改善がなくご心配な場合、朝からお仕事やご用事があって早朝診療をご希望される場合
にもご相談いただければと思います。
セカンドオピニオンの際は、これまでの検査結果や予防歴などがありましたら持参いただきます様お願いいたします。


この記事を書いた人

巡 夏子

大学卒業後、北海道の中核病院で内科や外科診療に携わった後、関東の夜間救急病院で勤務しながら大学病院や2次診療施設で循環器診療を習得。その後、2つの一般病院で診療部長や副院長として診療にあたる。2023年、渋谷区元代々木町に「めぐり動物病院 元代々木」を開院する。