以前ご紹介したタンパク尿について。
タンパク尿の原因が生理的なタンパク尿ではないこと、細菌や炎症の存在がないことがわかった場合はタンパク自体が腎臓病悪化の要因となるため治療を行います。
(タンパク尿の原因精査として、腎臓生検を行うケースもあります。)
蛋白尿の治療は薬物治療による内科療法になります。
レニン-アンジオテンシン-アルドステロン(RAAS)系の阻害
タンパク尿の治療の中心は、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)の阻害です。
目標は糸球体の毛細管圧を軽減することで、主に使用される RAAS 阻害剤は、アンジオテンシン変換酵素阻害剤 (ACEI) とアンジオテンシン II 受容体阻害剤 (ARB)です。
代表的な薬は
アンジオテンシン変換酵素阻害剤:エナラプリル/ベナゼプリル 等
アンジオテンシン受容体拮抗薬 テルミサルタン/ロサルタン 等
- 副作用:胃腸障害(食欲不振、嘔吐、下痢)、衰弱、低血圧、高カリウム血症
- モニタリング:治療開始および各用量変更後 5 ~ 7 日後のクレアチニン (目標 <30% 増加)、15 カリウム、および血圧
もし、タンパク尿の原因として高血圧があれば猫では以下の薬が第一選択薬になります。
カルシウムチャネル遮断薬(高血圧症):アムロジピン
- 副作用:歯肉過形成、低血圧
- モニタリング:治療開始から 5 ~ 10 日後の血圧と各用量変更
食事(フード)
蛋白尿の場合は、適度な量のタンパク制限と高品質なタンパクの食事が推奨されます。タンパク質制限食は尿毒素物質の生成を阻害し、糸球体内圧を軽減、タンパク尿の程度を軽減しますが、食事の開始が早すぎると栄養失調や筋肉低下による体重の減少につながる可能性があり、導入のタイミングはまだ議論されています。
また、オメガ3脂肪酸の補給により、タンパク尿が減少し、糸球体圧が低下し、炎症誘発性エイコサノイドの産生が減少する報告も一部であり、EPAやDHAのサプリメントの効果がわかってきています。
抗凝固療法
尿中にタンパクがでると、血液中のタンパクが低下し血液凝固以上が起こります。なかでも血栓塞栓症は犬や人におけるタンパク尿の合併症としてよく知られており、タンパク尿性腎疾患を患う犬における血栓塞栓症の有病率は25%と高いと報告されています。さらに、大動脈血栓症の犬 100 頭中 32 頭は タンパク漏出性腎症が原因だったという報告があります。
アスピリンがかつては使われていましたが、猫は心筋症で抗血栓薬を服用することがあり、動脈血栓塞栓症においてはクロピドグレルを使用する場面が多く安全性が比較的高いとされます。
クロピドグレル 抗血小板薬
- メカニズム:アデノシン二リン酸受容体阻害剤。血小板機能の不可逆的な阻害
- 副作用:胃腸障害(嘔吐、食欲不振、下痢)を引き起こす可能性があるとされますが、ほとんど経験はありません。
現在までのところ、静脈血栓塞栓症の予防における抗血栓薬の有効性に関する証拠はありません。
免疫抑制剤
腎生検により免疫複合体糸球体腎炎が確認された場合、免疫抑制が必要となります。しかし、糸球体疾患が疑われる場合でも体の状態、オーナーのご意向、費用がかかるなどの経済的制限により生検を行わないことが多いです。糸球体疾患が疑われる蛋白尿の犬の腎生検の約半数は免疫抑制剤に効果がある可能性がいわれているため標準治療に効果がない場合は、診断することによって治療選択が広がるため腎生検を考慮することが推奨されています。
腎生検を行ってなくても標準的な治療に反応しない場合に試験的に免疫抑制療法を開始する場合もありますが、以下の基準が大事になります。
- タンパク尿は糸球体起源であることが確認されています (UPCが >2)
- 免疫抑制は禁忌ではない状態。感染が否定されている。
- 家族性腎症やアミロイドーシスではない。
- 血清クレアチニンが 3 mg/kg 以上、進行性、血清アルブミンが 低く(2 g/dL 未満)緊急性がある場合。
蛋白尿は原因も様々でしたが、診断後の治療も経過によって様々です。
初期は症状がないことがほとんどですが、持続的な尿蛋白は予後が悪いことがわかっているため早めの対処が推奨されます。
アダルトからシニアは健康診断に尿検査を入れていただくことをお勧めいたします。
引用
Littman MP. VCASAP. 2011 Jan;41(1):31-62.
Ruehl M,et al. JVIM. 2020 Sep;34(5):1759-1767.
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