犬の気管虚脱 2

以前の回で咳の原因で多い気管虚脱について原因や診断についてご紹介しました。
今回は治療についてご紹介いたします。

治療

気管虚脱の治療は、気管の虚脱(つぶれる)の部位や犬の症状の重症度によって異ります。
症状には以外にも虚脱した気管で苦しく呼吸が努力呼吸になることがあります。
ではなく呼吸困難を訴えて受診された場合は緊急事態で診断や検査の前に安定化させる必要があります。ストレスを最小限にし酸素をフローバイ(鼻口元で嗅がせる)または酸素ケージに入れて酸素化。鎮静剤は時に鎮静と鎮咳作用の相乗効果が期待できる一方、過鎮静により呼吸抑制が出ることがあり、その場合は気管に入れるチューブで呼吸を補助する必要が出ます。
また、上部気道閉塞子は高体温になりやすいため、身体のクーリング(冷却)が必須です。喉頭(のど)の炎症性浮腫を軽減するために、グルココルチコイドによる治療を行うこともあります。
このような方法で犬の状態が安定した時に初めて追加の診断や治療ができます。

環境要因

治療の補助として、自宅で湿度を抑えた涼しい環境にする。
興奮させるような環境要因をオーナーに確認して軽減していただくようにすると咳の刺激を軽減となります。また、気道虚脱の犬の症状を軽減するための最も大事とされているのは減量(体重管理・ダイエット)になります。胸壁のコンプライアンス(膨らみやすさ)を高めて、胸郭外および腹腔内の脂肪組織を減少させることで、咳および呼吸困難は大幅に軽減されるとされています。
しかし、この時に減量のために運動をすることは危険を伴うため、慎重な食事計画を立てることが必須になります。

減量について具体的には
食べているもの全てからの現在のカロリー摂取量を確認、安静時エネルギー必要量(RER)を計算して必要量をご提案する必要があります。理想的には犬は週に体重の1%から2%減少する必要があります。
最初はカロリー制限のみで食事量を調整し、毎週体重を観察する。これがうまくいかない場合は、低カロリー、高繊維質の処方食を使用する。(最初からこの方法でもいいが、食事の変更が必須となります)

鎮咳薬(咳止め)

感染と炎症がある可能性がある場合はその治療を優先し、慢性的な炎症はなかなか完全に抑えられず、なかなか止まらない咳には咳のコントロールするために咳止め薬(鎮咳剤)が推奨されます。咳止め薬は、頸部気管虚脱に伴う咳に用いられる唯一の治療法であるケースも多くあります。咳止め薬で治療する場合、一般的な咳止め薬の副作用には、鎮静、便秘、耐性(使っているうちに効果が減る)の発現などがあり、投与間隔を頻回から開始し、徐々に投与間隔を延ばして最小有効量を最長の投与間隔で使用することが推奨されます。

グルココルチコイド

一般的にステロイドと言われる薬です。明らかに感染症が主体ではない限りは、喉頭、気管、気管支の炎症を抑えるために短期間使用されることがあります。ステロイドは服用を続けるとその影響で体重増加やパンティング などが起こり呼吸器系に返って負担をかける二次的影響を避けるため、短期間の治療が推奨されます。初期治療には通常、抗炎症剤のプレドニンを1週間以内で投与し、その後は吸入ステロイド剤(フルチカゾン フェイスマスクとチャンバーで投与)の使用が全身的な副作用を軽減する可能性があり、全身性副腎皮質ステロイドの代わりに吸入ステロイドを使用することで、副作用を最小限に抑えることができます。

気管支拡張剤

気管支拡張薬は、細い気管疾患が胸腔内気管虚脱の一因と疑われる場合に使用されることがあり、特には気道の内視鏡検査で見えるような大きな気道には効果がなく頚部気管虚脱の治療には適応ではありません。気管支拡張薬は、下部気道虚脱/気管支軟化症が疑われ、気管支鏡評価でそれらが証明された場合に特に重要なものの、効果は個体差があります。

外科治療は内科治療に反応がない場合に考慮される。頚部気管虚脱は外から気管を広げる気管外リングの報告があり、胸部気道は気管内ステントを考慮する場合もあるが、合併症が多く2次診療の呼吸器科で慎重に相談する必要がでてきます。

炎症や感染のコントロール、体重管理などの内科療法で治療・管理できることもあるものの、治療に抵抗性を示し重症下するリスクもあります。

どの原因であっても、咳は放置することで悪化する可能性があります。

気になる症状がある場合は早めに動物病院に相談しましょう。



当院は早朝7時から(日曜祝日は9時〜)完全予約制で診療を行なっています。夜間に体調を崩して朝も治っていない場合、すぐ対応できます。(緊急時はすぐにお電話ください)

この記事を書いた人

巡 夏子

大学卒業後、北海道の中核病院で内科や外科診療に携わった後、関東の夜間救急病院で勤務しながら大学病院や2次診療施設で循環器診療を習得。その後、2つの一般病院で診療部長や副院長として診療にあたる。2023年、渋谷区元代々木町に「めぐり動物病院 元代々木」を開院する。