犬の咳の原因で多い気管虚脱・気管支軟化症。慢性の症状がほとんどで、一緒にいるあいだじゅう、咳が気になり本人(犬)はもちろんの事、ご家族もとても辛くなる徴候の一つです。
気管虚脱は、気管輪の背腹側が平坦になることを特徴とし、中齢から高齢の小型犬で頚部および/または胸腔内の気管によく起こります。
原因
軟化性気道疾患の原因は単純ではなく、おそらく多因子であるされています。人の場合でも先天性疾患(生まれつき)、気管内のチューブの挿管、外傷、慢性気道の炎症、悪性腫瘍、喘息、甲状腺疾患などが原因として考えられていますが、決定的な原因は不明とされています。 犬の気管気管支軟化症の原因も不明であり、原発性(先天性)である可能性があるとされています。
好発犬種
気管虚脱/気管支軟化症は、中齢から高齢の小型犬によく見られます。発症時の年齢は通常 1 ~ 15 歳で、症状は何年も前から実は存在しているとされ罹患犬の約 25% は生後 6 か月までに症状が出ているとされています。
好発犬種は、ヨークシャー テリア、ポメラニアン、パグ、ミニチュア プードル、マルチーズ、チワワなどが多く、性別の差は言われていません。また、猫や大型犬がこの病気と診断されることはほとんどありません。(大型犬ではごく少数報告がありました。)
身体検査
気管虚脱は強い咳がでますが、通常は全身的には健康で肥満(あるいは体重過多)なことが多いとされます。多くの場合、呼吸は正常ですが、重度の場合は気道が潰れることによって努力呼吸を起こすこともあります。頚部の気管虚脱は通常、吸気(息を吸った時)時に呼吸が辛くなりますが、胸腔内(胸の中)の気管虚脱や気管支軟化症では呼気(息を吐いた時)の呼吸が辛くなります。また、重度で慢性の咳がある子は首の下の皮膚を触診することにより、胸部入口から肺の一部が飛び出すような肺ヘルニアが触知されることがあります。咳をする度に風船のように膨らみます。
皮膚の上から気管を触ると咳がでることもあります。
気管虚脱の犬の6割で喉頭麻痺があることがあるという報告もあり、疑う場合は麻酔で喉頭の観察をすることもあります。胸部の聴診ではゼーゼーする呼吸で音が聞こえないこともありますが、吸気および呼気の両方でクラックルス(捻髪音)が聴取されることがあり、気管支炎の併発に伴う気道への粘液貯留を疑うこともあります。
心音の聴診では、僧帽弁閉鎖不全症に関連した心雑音が気管虚脱の咳がある犬の17%で認められ、気道虚脱がない咳をする犬では2%と少なかったとされ、これによっても小型犬の心疾患と気管気管支疾患の関連が示唆され、左心房拡大と気道虚脱の両方を有する犬では気道炎症が咳の原因である可能性が高いとも報告されています。
検査
血液学的、生化学的評価、およびフィラリア症の検査が実施され、気管虚脱の診断は、自宅での咳の症状、咳の病歴、および身体診察所見から強く疑うことができます。
重度の気管虚脱を起こした犬の評価では半数近くで2つ以上の肝酵素値が上昇し、ほぼ全例で胆管疾患に関連する値が上昇していたという報告があります。これらの原因は不明ですが、中高齢の動物に気管虚脱が多いためかもしれませんが、ヒトでは慢性呼吸器疾患の低酸素症と中心小葉肝細胞壊死の発症が肝機能障害の原因である可能性が示唆されているため犬でも関連がある可能性がないとは言えません。
【胸部X線検査】
レントゲン検査による気管虚脱のチェックと重症度評価は、虚脱の部位と重症度を特定し疾患の進行をみるために必要です。気管虚脱は動的なものであるため呼吸における吸って、吐いての一連の流れの複数の段階で画像を撮って診断することが理想的とされます。頚部気管の虚脱は吸気時に確認でき、胸腔内気管は呼気時に虚脱します。
X線写真は、気管虚脱の頻度や重症度を過小評価することが多く、頸部虚脱よりも重症であると報告されている竜骨部(カリーナ)虚脱を検出できないことが多いとされCT検査の方が正確になります。ただ、レントゲン検査は他の呼吸器疾患や心疾患の有無を確認するため、除外するために必須の検査です。
引用:Della Maggiore A.et al VCNASAP. 2020 Mar
次回は気管虚脱の咳・治療についてご紹介いたします。
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