避妊手術の術式

犬と猫の避妊手術については以前の回でお勧めする理由やメリットやデメリットについて触れています。

今回は避妊手術の術式についてご説明します。

日本を含め世界中で行われている雌の不妊手術の方法は卵巣子宮摘出術(OVH)と卵巣摘出術(OVE)があります。

両者の術式の特徴は
卵巣子宮全摘出術(OVH): 左右卵巣と子宮をどちらも摘出(まとめて摘出できます)
卵巣摘出術(OVE):左右の卵巣のみを摘出 

卵巣子宮摘出術の方が長い歴史があり、アメリカや日本ではまだ卵巣子宮摘出術の方が主流とされ、ヨーロッパでは卵巣摘出術が主流なようです。

両者の方法は多くの国で比較されてきました。
一般論として卵巣子宮摘出術は子宮の全貌を確認し膣に近いところまで摘出するため卵巣摘出術に比べて皮膚や腹膜の切開創が長く、比較すると卵巣摘出術は手術時間がやや短く、手術侵襲も減ります。

子宮を取るメリットは子宮自体の病気を防ぐためですが、卵巣摘出によって卵巣から出るプロゲステロンが出なくなると子宮は退化するため子宮の疾患にも起こらないとされ、実際にも過去の報告において、子宮を残すことで子宮疾患が増えたというデータはありません。

ある、オランダの報告ではOVHを受けた犬とOVEを受けた犬の間で、総手術時間、疼痛スコア、および創傷スコアに有意な差は観察されなかったという報告があります。

また、2つの術式を複数の猫で比べた報告では術後の痛みやストレスについて比較しており、大きな違いはないものの、OVHの方が手術時間が長く、術後に追加の痛み止めを必要としたという報告がありました。

また、尿失禁が卵巣切除(どちらの術式でも当てはまる)の一般的な合併症とされておりますが、それの発生率はややOVHの方が多いという可能性や、犬種や体重で違うという報告があります。

子宮の位置と術後の尿失禁について研究した報告では子宮も摘出することにより膣が短縮、それが尿失禁に関わっている可能性が示唆されており、子宮を摘出しない方がメリットがあると結論づけています。ただ、6ヶ月より早期の避妊、10kg以上の犬、断尾されている犬がなりやすいなどデータがあり、術式の問題だけではないようです。

避妊手術の一番の目的は妊娠をさせない、発情させないことにより乳癌の発生を予防する。子宮蓄膿症を予防するなどがあり、これは元気な状態で長く生きるために欠かせないという認識は統一されております。

当院では2つの術式は同じくらい多く執刀してきていますが、犬も猫も子宮に異常がなければ卵巣摘出術(OVE)を選択&推奨しております

術式のほかにも麻酔や痛みに関してもご心配があるかと思います。
ご心配なことはお気軽にご相談くださいね。


当院は早朝7時から(日曜祝日は9時〜)完全予約制で診療を行なっています。(緊急時はすぐにお電話ください)

引用文献

Peeters ME et al . JVMA 2011
Pereira MAA et al. BMC Vet Res. 2018
Gregory SP et al. JSAP. 1999

この記事を書いた人

巡 夏子

大学卒業後、北海道の中核病院で内科や外科診療に携わった後、関東の夜間救急病院で勤務しながら大学病院や2次診療施設で循環器診療を習得。その後、2つの一般病院で診療部長や副院長として診療にあたる。2023年、渋谷区元代々木町に「めぐり動物病院 元代々木」を開院する。