犬の血管肉腫は脾臓や心臓に発生することが多いことが知られています。
以前の回でご紹介したので、一緒にご覧ください
心臓の血管肉腫は多くが右心耳というところに発生します。右心耳の腫瘍から出血を起こすと、心臓と心膜の間に血液様の心膜液がたまり、心膜内はスペースが小さいため液体が溜まるとすぐにパンパンになります。
そのパンパンに中の圧が上がった状態が心タンポナーデといわれます。
- タンポナーデという言葉の意味自体は、空間に何かを詰め込んで圧をかけておさえるといった意味があるようですが、心タンポナーデは心膜という空間に何らかの原因で液体(時には気体)が溜まり心臓が拡張した時に外から押される圧により凹んでしまう状態を言います。ただ液体が溜まっているだけでは心タンポナーデとは言わず、心膜液貯留という言葉にとどまります。
- 右心耳にできた血管肉腫という悪性腫瘍から出血したら、溜まっている液体は血液様になりますが、原因となる病気によってたまる液体の種類、性状が変わります。
- 心タンポナーデになるかどうか、すなわち心膜液が溜まって心臓の拡張期に右心室が虚脱してしまうかどうかは溜まった液体の量ではなく液体の貯留速度に関連しているとされています。急速に貯留すると心膜が進展する余裕がないため、対応できず中の圧が上がりますし、ゆっくり液体が貯留した場合は心臓や心膜がある程度延びて対応することができるためタンポナーデになりにくいとされています。
【身体検査】
- 心拍数の上昇
- 心タンポナーデ状態では心臓が押されているため、一回に全身に送る血液が少なくなってしまうことから、体が心拍数をあげて対応します。心拍数が普段より高くすることで血圧を維持します。
- 血圧低下
- 奇脈(吸気と呼気で血圧が変動する。)
- 心タンポナーデだと、ポンプ室である左心室の拡張ができず、かつ吸気時に静脈の血液の量が増え右室が左室を圧排します。そのため、左室から出る血液量が減る=動脈圧が下がるという現象が起きます。吸気と呼気の動脈圧の差が大きいことを奇脈といい、その差がが大きいほど心タンポナーデが重症となります。
奇脈の判断は難しいことも多いですが、心拍数の上昇はわかりやすい所見になります。
- 心タンポナーデだと、ポンプ室である左心室の拡張ができず、かつ吸気時に静脈の血液の量が増え右室が左室を圧排します。そのため、左室から出る血液量が減る=動脈圧が下がるという現象が起きます。吸気と呼気の動脈圧の差が大きいことを奇脈といい、その差がが大きいほど心タンポナーデが重症となります。
【検査】
心エコー検査で心膜や心臓の様子をみます。拡張期に右心帽や右心耳が潰れている所見。出血で心臓が小さくなっている所見が見えます。血液検査では急性の出血だと貧血が出てないこともあります。
液体が透明に近いのか、血液様なのか確認します。液体の性状を調べる検査も必須になります。
また、腫瘤(できもの)の有無をみることで原因により近づきます。血管肉腫以外にも中皮腫という腫瘍はできもの状のものが発現せずに中皮という膜が腫瘍化して液体がたまります。
【治療】
心タンポナーデを確認した場合、胸の皮膚を介し、肺を避けながら心臓の膜に針を刺して中の貯留液を抜きます。大型犬だと4、500ml溜まっていることも。
治療後抜いて液体がなくなっても、再度急速に出血して状態が悪化することは多くあります。
心膜穿刺自体が心臓の膜に針を指す行為であるため以下がリスクになります。
- 肺に針が刺さり気胸になる。
- 心臓に針が刺さり不整脈がでる。
- 針が刺さった場所から出血する。
よく起こることではありませんが、処置後はしっかり経過をみます。
以下は実際のエコー検査写真になります。
急性の治療は心タンポナーデの解除になります。右心耳に腫瘤(できもの)が確認された場合はほぼほぼ血管肉腫とされており、組織検査は現実的ではありません。
化学療法(抗癌剤)のドキソルビシン(アドリアマイシン)は補助療法としてよく行われるもので、一定の生存中央値を伸ばす効果があるとされております。
治癒は難しい腫瘍で症状が出ると失神やふらつきなど辛い症状がでますが、普段は元気に食欲もあることが多い腫瘍です。
治療で悩まれている場合はお気軽にご相談くださいね。