猫の血管肉腫

犬では他の動物種より発生率が高い腫瘍ですが、猫は100頭に2頭くらいの確率とされており、人は100人に1人以下の発生率とのことなので人よりは発生がある腫瘍になります。


【発生場所】
犬同様血管がある場所ならどこにでも発生し得る腫瘍です。

原発部位(最初に腫瘍が発生した部位、原発巣ともいう 対する言葉は転移部位)は通常皮膚皮下または内臓(一般的なのは肝臓(35%)、腸(小腸と大腸が同じくらいで31%ずつ)、腹部リンパ節(31%)、腸間膜 (27%)、脾臓 (23%)、膵臓 (8%)ですが、他の報告部位は横隔膜 (8%)、肺肺(19%)、胸腔、鼻腔、脳脳 (8%)、眼/眼周囲が含まれる)などの部位があります。
まれに、異物(スチールステープルやポリプロピレン縫合糸など)による二次的血管肉腫が報告されています。


猫の血管肉腫はは犬よりも挙動が悪くないと考えられがちですが、内臓型と皮膚型では一般に腫瘍の挙動が異なり内臓型は攻撃的で、転移性および多巣性病変の発生率が77%と高く(犬と同様)、転移部位としては肝臓、横隔膜、卵膜、膵臓、肺などが一般的とされ生存中央値は 77 日 (範囲、23 ~ 296 日) でした。

腹腔内で出血している場合、犬は血管肉腫の可能性が高いのですが、猫では腫瘍ではない疾患が半分以上という報告があります。しかし、猫も腫瘍性疾患だけでみたらやはり脾臓の血管肉腫が一番多かったとあるので、猫でも犬同様血管肉腫は腹腔内出血の最も多い原因に近いと言えます。

猫も皮膚にできた場合は外科切除がしやすいため内臓型より予後が良いのは犬と同様と言えます。皮膚の血管肉腫での生存期間中央値が1466日(4年以上)を超えたと報告があります。ただ、皮膚の下に浸潤(伸びていた)していた場合は切除後に再発率が6−8割とされ、転移も多く(約半数)、外科切除後の定期チェックは必須となります。

【症状】
元気消失、食欲不振、呼吸困難、虚脱、および鳴くなどが多いとされます。出血しやすい腫瘍であるため急性出血による症状が多いと考えられ、診断時に猫の82%が貧血になっているというのもマッチしています。

治療は犬と同様外科治療になります。
補助的な治療は化学療法(抗癌剤)ドキソルビシンという薬になりますが、まとまった報告があまりありません。
内臓型の大多数 (33%) では、診断時までに転移してしまっており、ほとんどの猫のオーナーは化学療法を受けさせないことが多いとされ治療成績のデータがない理由かもしれません。

体の表面は普段からスキンシップで触っているのですぐに気がつける方が多いですが、内臓の腫瘤(できもの)にはなかなか気がつけませんので、健康診断で血液検査だけではなく画像検査(x線検査やエコー検査)も受けることをお勧めしております。
もちろん、血管肉腫は進行の早い腫瘍になり年に2年の検診をしても十分ではないかもしれませんが、検診を受けることで普段の健康な時の状態と異常が出た時の状況を比較することによって診断がスムーズに運ぶというメリットに出会うことがあります。
健康診断は年に1回、シニアは年に2回受けていただくことをお勧めいたします。

ご心配なことはお気軽にご相談くださいね。

参考文献:
Griffin, Maureen A.et al.Veterinary Record 189(9): e585.
Culp, W.T.N. et al. 2008. JVIM 22(1): 148–52.

この記事を書いた人

巡 夏子

大学卒業後、北海道の中核病院で内科や外科診療に携わった後、関東の夜間救急病院で勤務しながら大学病院や2次診療施設で循環器診療を習得。その後、2つの一般病院で診療部長や副院長として診療にあたる。2023年、渋谷区元代々木町に「めぐり動物病院 元代々木」を開院する。