猫の心臓病で最も多い心筋症
最も一般的なものは心臓の壁が厚くなるタイプの肥大型心筋症が多く、その他は閉塞性肥大型心筋症、拘束型心筋症、拡張型心筋症、分類不能型心筋症、不整脈源性右室心筋症(まれ)などです。
正常の心臓の壁、心筋といわれるものは左側の心臓と右側の心臓で厚みが違います。
心臓の左側の壁は肺で酸素化した血液を全身に送るためポンプとして働くために右側より厚みがあります。
病気がないたくさんの猫では心エコーで測定されて正常の猫の心臓の筋肉の厚みはこの範囲と決まっており、肥大型心筋症の定義は心筋の厚みが6mm以上となります。
以前猫の心筋症について触れた回もご参考にしてください。
診断は心エコー(心臓超音波検査)になり、その他にも補助的に、心電図、血液検査、血圧、ホルモン測定、バイオマーカー などがあります。頻脈、脱水、高血圧、内分泌の病気、腫瘍などでも心筋が厚くなるのでそれらの異常をチェックする必要はあります。
また、身体検査は必須ですが、難しいのが元気で症状がない子の聴診の解釈です。
犬で最も多い心臓の病気である僧帽弁閉鎖不全症は症状がない時期でも聴診で特有の心雑音があれば病気がある可能性が高くなります。猫では僧帽弁の病気は稀で臨床的に意味がある(身体に影響が出るような)僧帽弁疾患は先天性の心疾患しかないため、猫は”心雑音イコール病気の可能性がある” とは言えません。
猫では特に心音の聴診では以下のような特徴があり、獣医師側が気を付けるべき点にもなります。
- 猫では正常(病気がない)でも心雑音が出る子がいる
健康そうな猫の15%は心雑音があった。病気の有無は心エコー検査で確認します。 - 興奮して心拍数が早くなると心雑音が出る子がいる
動的聴診というものになり、猫を少しだけ持ち上げて緊張させて聴診をするようなことを海外の循環器専門の研究者が調べています。(この報告では少しドキドキするくらいで負担のないように配慮されています。)要は、緊張でドキドキして心拍数が早くなると心臓が早く力強く拍動し、血液が流れるところが狭くなりそこで雑音が出る仕組みです。
狭いところができても必ずしも病気というわけではないのですが、心臓病の中には緊張時と同様の状況が起こる病気があり心エコー検査で確認します。狭いところが顕著で心筋の壁が正常より厚い場合は心筋症という病気の診断となります。 - 貧血で心雑音が出る
ある種の無害性雑音と呼ばれるものです。妊娠や貧血、発熱などで起こる雑音は心臓病がなくても心雑音が出ることがあります。大抵心雑音の強度が小さく(雑音はグレード1が最も小さく5が最大のところ、生理的な雑音はグレードが1−3程度であることが多いです。) - 心雑音がなくても心臓の病気がないとは言えない
心筋症の型によって心雑音がでるタイプと出ないタイプがあります。
心筋症のたくさんの猫を聴診した過去の報告では心雑音があったのは4割から9割と報告によってまちまちで、それ以外の心雑音がない子でも心筋症の子がいました。 - 心雑音の強度が高いと(雑音の音が大きいと)病気の可能性は少し高まる
心雑音のグレードが4、5とつよい音だと先天性の心疾患を含めて心臓の病気がある可能性が高くなります。 - 心雑音よりは不整脈(リズム不整)があるケースの方が心疾患を疑う
身体検査での不整脈は心臓の病気を示唆する因子の一つとされています。診察室で不整脈があったら心臓の検査をお勧めしております。犬では正常で認められる呼吸性不整脈は通常認められる生理的なものになり、猫ではあまり出ない不整脈です。
まとめ
心エコー検査は痛みもなく通常は麻酔も必要のない検査です。
特に症状がなく元気な場合でも、猫の心臓の病気は上記のように身体検査で判別し難いこと、どの年齢の子でも発症し得ることからご心配な場合はまず答えが出やすい心エコー検査を受けていただくことがお勧めです。
心エコー検査は数分程度横になってもらう必要があります。スタッフがいい子いい子しながら、ほとんどの子はスムーズに受けられますが、もしそれが難しそうな場合は数秒でできる採血で血液の心臓バイオマーカー を測る検査も参考になります。
過去に心臓病の猫さんを飼われてた方は、急にある日突然苦しくなる症状が出て病院にかけこみ発覚するこの病気が大変ご心配と、年に1回の健康診断で心エコー検査をご希望されることが多く、負担なくできるためお勧めしております。
疲れやすい、呼吸が上がることが多いなどの気になる症状がある場合はもちろん、元気がある場合の健康診断・是非ご連絡くださいね。