人では、女性に多い鉄不足でおこる鉄欠乏性貧血がよく取り上げられますね。
貧血は血液検査でヘマトクリット (Hct)、濃縮細胞容積(PCV)、ヘモグロビン濃度 (Hb)、または赤血球数 (RBC) によって診断と重症度確認をします。HctとPCVはほぼ同じですが、PCVがよりアーチファクト(検査エラー)が少ないです。
犬や猫は人のように女性が貧血しやすいといった雌雄差はありません。生理的(病的の反対)な違いでは、犬と猫の基準値は異なり猫の方が低めです。また、幼若動物(赤ちゃん)はヘマトクリット基準値が低く貧血にみえてしまいます。犬種差としてはハウンド系(グレイハンドなど)は逆にヘマトクリット基準値が高くなります。
一般的には貧血といえば、原因となる病気が背景にあります。
一般的に貧血はその原因によって進行の速さや重症度に影響します。症状も背景による病気によってまちまちですが、貧血自体の症状に言及すると、外傷による大量の失血だと意識が遠のいたり倒れてしまったり(失神)と強い症状がでますが(血圧が下がることにも関係あるので貧血だけの症状ではない)、炎症性の貧血や腎臓、肝臓からのの貧血はゆっくり進行し、貧血は軽度のことが多いです。
ただ、ゆっくり進行する貧血は外からみえる症状がないところが意外に怖いところです。貧血に対し少しずつ身体が慣れてしまい、結果的に貧血が進行して気がついた時には舌の色や粘膜の色が薄くなり、ぐったりと重症になり、原因の病気と合わせての対応が必要になります。
原因は幾つかに分かれますが、造血機能の有無(新しく赤血球を作れるか否か)で再生性貧血と非再生性貧血に分けられます。
再生性貧血 中程度から重度で発見されることが多いです。
- 出血:身体の外に出血する外傷に加え、身体の中で起こるもの、例えば消化管内の持続的出血や内臓内、体腔や内臓にできた腫瘍や癌からの出血が原因があり、こちらは原因としては多くあります。出血してから数日立たないと血液が作られているように見えないので初期は赤血球が再生していないように見えます。
- 溶血: 赤血球が壊されてしまう状況です。免疫介在性性溶血性貧血、炎症からの2次的な免疫反応の亢進によるもの、中毒(ネギ系)などがあります。
非再生性貧血 骨髄での造血機能の有りと無しにわけられ、骨髄の機能が正常な場合は2次性の貧血とも言われ比較的軽度から中程度の貧血が多いです。
- 骨髄で血液を作る機能が低下:非再生性貧血のなかでは別画で重症のことが多いです。例:薬剤、放射線、感染、腫瘍、炎症、汎白血球減少症(特発性)、骨髄異形成、無効造血など
- 骨髄で血液を作る機能は正常:2次的に起こる貧血が多い。
- 炎症(慢性炎症):感染、炎症、腫瘍などによる全ての炎症が原因になります。長期にわたる慢性炎症は材料の鉄を多く使うため結果的に鉄欠乏貧血になることがあります。
- 腎臓疾患:腎臓から出る増血(赤血球を作る)ホルモンが出なくなってしまう貧血。赤血球が壊れやすくなります。また、腎疾患による尿毒症で消化管から微量の出血も起こるので慢性的な失血も貧血の原因になるとされています。
- 肝臓疾患:重度に肝機能が低下すると、赤血球の形が変形したり、脾臓が腫れたりするため赤血球が壊れやすくなります。その他、葉酸の欠乏や溶血、栄養不足などの原因で起こります。
- 内分泌疾患:甲状腺ホルモンや副腎ホルモンが血液の産生を促すためこれらが低下すると貧血が起こりますが、軽症のことが多いです。
- 鉄欠乏性貧血 赤血球のヘモグロビンの材料の鉄の摂取が不足しているだけではなく、消化管出血、腫瘍から微量の出血が続くことによるものも多くあります。人ではこれが最も多いそうです。
これらの貧血の原因を診断するために血液検査、ホルモン検査、画像検査、時には骨髄生検(骨髄の細胞や組織をとる)など各種検査が必須となり、時には緊急性がでるため診断と並行して治療することとなりますが、基本的には原因によって治療法がことなりますので、最終的にそこは丁寧に診断する必要があります。
貧血の原因や進行、重症度は様々ですが、いずれも早期発見で救命できる確率があがります。
普段からお家の子の粘膜の色、耳の皮膚の色、みてあげてくださいね。
貧血による合併症もご紹介します。