血液が逆流するその他の心臓病


死因の2番目に多いのが心臓病です。

それは弁膜症、すなわち僧帽弁閉鎖不全症がとても一般的な病気というのもあるようです。20kg以下の小型犬が13歳までに8割以上(85%)も罹患するとされます。犬の心疾患の75%はこの病気です。ただ、大型犬も罹患するとされ、小型犬より進行が速い可能性があるとされています。猫ではこの病気は稀です。

雑音があれば、僧帽弁で血液が逆流していたら全てがこの病気なのか?以前ご紹介したこの病気ですが弁で血液が逆流する病気は他にもあるのでご紹介します。

弁の正常な状態をおさらい
心臓の中や全身の血管の中で血液が流れる方向はすべて一方通行です。
弁は心臓内部にあり血液が逆流しないように心臓の動くリズムと連動して血液が流れる時に開き、それ以外は2枚の弁がしっかり閉じて逆流しいないようになっています。
弁の病気には”閉鎖不全”と”狭窄”があります。閉鎖不全は2つの弁先が変性(形が変形)して閉まりづらくなり閉まっていても血液の一部が逆流します。狭窄は弁が開きづらく狭いので血液が通り辛くなります。狭窄は先天性の心疾患(生まれつきある心臓の病気)で認められ、多くある病気ではありません。閉鎖不全症は後天的(生後にかかる)で一般的な病気です。

心臓には弁が4つ、心臓の部屋が4つあります。悪くなる弁は左側の上と下の部屋(左心房と左心室)の間にある僧帽弁に罹患することがほとんどです。ただ、この病気の子のうち3割は対側の右側にある三尖弁にも罹患するとされています。

病気の始まりと診断の流れ
弁の病気は中高齢で起こります。ごく初期は症状が全くないためお家の方が気がつくことはないでしょう。初期の弁の変化はエコー検査でよくよく見たないとわかりません。少し進行すると血液の逆流が増え、聴診で心雑音として聴こえるようになります。いずれにしてもこの時期は症状がなく逆流が臨床的に意義がない(本人の体に影響しない)時期になります。

聴診では弁の病気がありそうだというところまでわかりますが、確定診断はつきません。
心臓の雑音は聴診器を当てて一番大きく聞こえる胸の位置とその音質である程度予測はできますが、しっかり診断する必要があります。

診断方法
確定診断は心臓超音波検査(心エコー検査)で弁の形、逆流、心臓のサイズ、重症度、その他の病気のチェックを行います。

僧帽弁逆流の鑑別 

  1. 後天的な弁膜症 
    多くはこの病気があります。
  2. 先天的な僧帽弁異形成(狭窄や逆流が起こる)
    全体から見ると稀な先天性心疾患です。150頭くらいを集めた犬の先天性心疾患の中の8%程度でしたが、重度な症状が出る疾患です。若齢時に大きな心雑音が左の心尖部で聴取される場合は警戒が必要です。他の心臓奇形と合併することが多いです。
  3. 炎症や感染による心内膜炎による弁の形の変化(感染性、非感染性があり)
    弁の形は1番の弁膜症に似ています。僧帽弁の他に大動脈弁に罹患しやすいとされています。
    一番の違いは弁の変化が起こる前、あるいは同時期に全身状態が著しく悪化します。発熱、食欲不振や感染を疑う全身症状が出ます。大型犬に多いとされていましたが、国内では小型犬の報告が多くされています。
  4. 心拡大による弁輪拡大による僧帽弁での中心性逆流(拡張型心筋症、動脈管開存症などで起こる):弁の形は正常なものの心臓が大きくなる病気で心サイズが顕著に拡大し、2枚の弁が閉じた時に届かなかず閉まらなくなり弁と弁の隙間で血液が漏れる状態になります。1番の弁膜症と違って逆流自体の雑音は小さい音で(動脈管開存症があれば通常は胸の前方で大きな雑音が聴こえます)、エコーで弁の肥厚は見えずカラードプラではその逆流は弁と弁の隙間を真っ直ぐ逆流するシグナルが見えます。

写真は変性した犬の僧帽弁閉鎖不全症の子のエコー画像です

僧帽弁の2つの弁(前尖と後尖)が(変性)お団子のように厚みが出ています。

血液は弁が開いた時に赤い矢印のように流れます。
弁が閉じた時にエコーカラードプラという機能で血流をみると、血液が逆流しているのがわかります。(黄色と水色のところです)


是非早期発見のために小さなころから継続的に身体検査、聴診をしてもらいましょう。


参考文献
A Tidholm. et al. J Small Anim Pract  1997 Mar;38(3):94-8.

ACVIM MMVD ガイドライン 2019

この記事を書いた人

巡 夏子

大学卒業後、北海道の中核病院で内科や外科診療に携わった後、関東の夜間救急病院で勤務しながら大学病院や2次診療施設で循環器診療を習得。その後、2つの一般病院で診療部長や副院長として診療にあたる。2023年、渋谷区元代々木町に「めぐり動物病院 元代々木」を開院する。