こんなものが中毒を起こすの?
こんなものを食べてしまうの?
など、意外と思われそうなもの(院長 巡の主観です)をご紹介します。
- 塩水
ビーチでノーリードではしゃいで遊ぶ大型犬に多い印象です。遊びながら海の水(塩水)をガブガブ飲んでしまう子がいます。喉が渇き水を飲みたくなった時にそばにある海の水を飲んでしまうのかもしれません。ついでに、ビーチの砂を食べすぎて具合が悪くなった子もいます。
塩水は誤飲・誤食の毒物リストの上位には入っていないのですが危険なものです。
過剰に摂取すると重度の高ナトリウム血症(血液検査でわかります)や塩中毒を引き起こす可能性があります。塩自体が中毒を起こすのですが、普段の生活では塩をとりすぎることはないですよね。高ナトリウム血症の初期兆候には嘔吐や下痢が含まれますが、塩中毒は急速に進行して、酔っぱらったような歩き方、発作、進行性うつ状態へ、そして最終的には重度に脳が腫れて神経異常を起こし死にいたる可能性があります。新鮮な水を頻繁に与えて犬がビーチではしゃいでいる間、塩水を飲まないように注意しましょう。
塩を普段食べることはないと記載しましたが、ER(救急)で勤務していた時に塩中毒はたまにありました。ご自宅でおうちの子が何かを誤食し、慌ててインターネットで”塩を大量に飲ませると吐かせることができる”と見て、塩を食べさせてしまったオーナーがいらっしゃいました。その子は石を飲み込んだのですが、来院した時は塩中毒の症状が出ていました。とても危険なので自宅で吐かせる行為は絶対やめてくださいね。
- 育毛剤 (スカルプD®️、リアップ®️ などの成分 ミノキシジル)
スカルプD®️やリアップ®️で知られる育毛剤は壮年性脱毛症(薄毛やハゲといわれるもの)に使われている成分であるミノキシジルが犬や猫に強い毒性があります。
血管を広げ血圧を下げる作用がある薬、いわゆる降圧剤です。
ミノキシジルはリアップ®️のように頭に振りかけて使う液体状の製品がほとんどですが、降圧剤としては錠剤であります。
この成分の恐ろしいところは、ごくごく少量でも強い毒性があることです。犬にも毒性を示しますが、特に猫に対して重度な毒性を持ちます。枕についた成分や製品を振りかけたオーナーの頭を猫が少し舐める、薬剤が少しだけ動物に飛び散って付着するだけで中毒を起こすという報告があります。
犬も猫も半数は中程度から重度の症状がでており、症状が出た子の12%で死亡しております。
猫の場合の兆候には、食欲不振、嘔吐、嗜眠(眠ったようになる)、呼吸困難、肺水腫(肺内の液体)、胸水(胸内の液体)、低血圧、チアノーゼ(舌や歯茎が紫に変色)などがあります。
犬の場合の兆候としては、ぐったり、嘔吐、心拍や脈の過剰上昇、血圧低下などが挙げられます。これらの通常、兆候は 45 分から数時間以内に発生します。
- アボカド
余談ですが、アボカドは昨年の動物看護師の試験に出ました。
今は比較的一般的に知られるようになりましたが、まだまだ認知度が高くはないと思います。アボカドのペルシンという成分が問題となり、実は犬猫より鳥や大型動物(牛、ヤギ、羊など)に重度な中毒を起こすとされています。
犬や猫のへの影響は少ないと書いてある書籍やサイトもありますが、過去に犬2頭でアボカドによって重度な中毒が起こったという報告があります。ケースレポート(数例の事例)でかつ食べたかどうかが推測なので、微妙なところですが、内容はケニアのナイロビにある大学獣医教育病院で2頭の犬が診察され、いずれも呼吸困難、腹水、胸水と心嚢水、肺水腫が起こり、うち1頭は軽度の好中球性白血球増加症、血液検査で肝酵素の上昇、タンパク尿がでたようです。亡くなって死後剖検がされましたが、心臓の筋肉に損傷、肝臓、腎臓に炎症が出ていたとう結果でした。犬2頭がアボカドみたいなものが好きだったこと、症状が他の動物(ヤギ、羊、馬)で報告がある症状と同一のためアボカド中毒と推定されたようです。
犬猫に対する多くの報告はない食品ですが、アボカドは犬猫に与えないのが正解でしょう。毒成分ペルシンによる症状の他にアボカドには脂肪分が多く含まれているため、膵炎(膵臓の炎症)や消化器症状(嘔吐や下痢)が出てしまうリスクがあります。
また、大きなアボカドの種を飲み込んだ場合に、食道、胃、腸管に閉塞しますので注意が必要です。
他の動物への影響も記載しておきます。カナリア、インコ、オカメインコ、大型のオウムなどのペットの鳥には、ペルシンに非常に弱いそうです。止まり木に座ることができない、呼吸困難、鳥の心膜液、胸水、肝腎不全、突然死などが起こるそうです。牛やヤギや馬は、アボカドやアボカド植物の葉を十分に摂取すると乳房炎(乳腺の炎症)、口、頭、首、胸部の腫れ、心臓の損傷を引き起こし、死に至る可能性があります。
さらに番外編
過去に私が治療にあったって恐ろしかった誤飲・誤食・中毒
乾燥豆
お正月に豆を炊こうとしておいて置いた豆を小型犬が大量に食べてしまいました。1番のウチに胃内の水分吸い豆は膨らんだのもあるのか、胃があるあたりの皮膚を見るとパンパンに膨れて豆の形がわかってしまうほどでした。吐かそうとしても胃が過度に充満していて吐けず、回復で取り出しました。しかし、胃の損傷が激しくて手術後に胃が再度破れてしまうくらいでした。
豚の骨を細かく砕いたもの
これは誤食ではなくて、オーナーが食事として自分の犬に与えたものでした。調理され3−4mmくらいに細かく砕かれた骨です。普段より多く与えてしまったのか、犬の大きさに見合わない量を食べたのが悪かったのではないと考えられました。消化が悪いものなので、大腸まで骨の形のまま小さくならずに移動してしまい全てが大腸で閉塞しました。ある程度の大きさがあった方が逆に隙間ができて動いたかもしれませんが、小さめのちょうど砂利のような骨で隙間が埋められて硬く強固になり大腸から全く動かなくなりました。指である程度出せたのですが、びっしり詰まった骨による大腸の損傷もひどく嘔吐下痢、炎症が強くあっという間に亡くなり手の施しようがありませんでした。
大型犬の子普段から鹿や豚の骨・軟骨などが与えられているようですが(猟をされるお家では与えられることが多かったです)、犬もオーナーも慣れていない場合、動物の体格が小型から中型の場合、与える量が多すぎないかどうかなどに十分注意してください。できれば与えない方が良いと考えております。
球根
中毒物質として有名ですね。土をいじって遊びで掘り起こしたり花壇に植えようと思ってオーナーが庭に用意していたものをいたずらして、食べてしまったというケースがありました。こちらも緊急治療をしても全く功を奏さず下痢嘔吐、腎不全でひどい症状で亡くなってしまいました。
今回は番外編でした。
くどいようですが、誤飲・誤食・毒物は気がついたらすぐに動物病院に相談してください。
中毒のほとんどのものは解毒できず、対症療法しかありませんし、症状のない時から対処が大事です。時間が立つと救命率が下がります。
参考文献・参考サイト
Kathy C Tater. etal J Am Anim Hosp Assoc 2021 Sep 1;57(5):225-231.
I B Buoro. et al. Onderstepoort J Vet Res 1994 Mar;61(1):107-9
petpoisonhelpline.com ペット中毒ヘルプラインHP